お福『え!定吉さん…あなた、人間じゃなかったの?』
定吉『ごめんお福ちゃん、実はおいら狸なんだ。』
お福『そんな…』
定吉『狸じゃダメかい?』
お福『だって、彼氏が妖怪だなんて誰にも言えないもの。』
定吉『昨日まであんなに好きだって言ってくれてたのに。』
お福『ごめんなさいね、さようなら(妖怪なんて冗談じゃないわ、しかも狸だなんて)』
定吉『お福ちゃん…』
母『元気出しなさい定吉。』
定吉『うん、ただあんな急に態度を変えることないのにと思って、それだけだよ。』
茶太郎(父)『おまえもおまえだ、何も人間の幽霊と付き合うことはないだろう。江戸には可愛い狸がたくさんいるというのに。』
茶子(妹)『おにいちゃんまたフラれたの?』
定吉『おい茶子!またとはなんだ!』
定吉『…なんてきれいな人なんだ… だめだ、幽霊に惚れちゃだめだ!』
おばば『おや?どうしたんだい?んー?…おまえは狸だね?(まだ若いね、なにやら興奮して尻尾が出ちまってるよ)赤い顔して、もしやあたしに惚れたのかい?』
定吉『えっ?ち、違う、あんたじゃないよ、あの人だよ。』
おばば『ははは、あんた素直だね。それに狸のくせにお目が高いよ。おしづちょっとこっちに来ておくれ。』
おしづ『どうしたの?おばばさま。』
定吉『おしづさんはおいらが人間じゃなくても平気なのかい?』
おしづ『それはお互い様よ。そんなことは考えないで今を楽しみましょう定吉さん。二人ともそこらの人間よりは長生きかもしれないけど、それでも永遠じゃないわ、余計なことを考えたりしてたらあっという間にいなくなるものよ。』
定吉『そんなものかなあ。』
おしづ『夏はまだ先だしあたしたちにも時間があるの。よかったら狸の世界のことをいろいろ聞かせてほしいわ。』
おしづ『今日も楽しかったわ定吉さん。』
定吉『おしづさん!』
おしづ『あら…ごめんなさい、あたしの手に触れることはできないわ、幽霊なんだから。』
定吉『あっ…そうだった。』
おしづ『でも心になら、触れることはできるわよ定吉さん。』
定吉『は?…はあ…』
町人(妻)『ねえあんた、あの若い男、ひとりで何してんだろ。』
町人(夫)『さあねえ、でもなんだか幸せそうな顔してるねえ。』
《終わり》
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