『こらっ!亀をいじめるのはやめなさい!』
亀『なに見てんだよ貧乏漁師』
男『なっ…なんだと!』
亀『なんだ、おまえ怒っても間抜けヅラだな、ぼんくら漁師』
男『亀!』
亀『目が覚めたか?貧乏漁師』
男『貧乏漁師じゃない!ぼくは浦島太郎だ… ここはいったいどこなんだ?』
乙姫『もう大丈夫そうね、よかったわ太郎ちゃん! あたしは乙姫…でここは竜宮城っていうところなんだけど、聞いたことないかしら?』
太郎『はあ、あの…僕はどうしてここに?』
乙姫『あらやだ! 亀きちは何も説明しないで太郎ちゃんを連れてきちゃったの?だめね。
じつはね、
今この竜宮城は若い人がいなくなってお年寄りばかりになっちゃったのよ。それでいろいろと人手が足りなくて困っているというわけ。
大きなお城でしょ、男手がとくに足りなくて…それでね、亀きちにお子ちゃまでもいいから何人か連れてきてって頼んだの。
でも連れてくるならちゃんと説明しなくちゃダメじゃない亀きち…これじゃまるで、ふふっ、人さらいみたいじゃないの、
やだわ、ほっほほほほ』
乙姫『とりあえず明日は壁の修理からお願いするわね太郎ちゃん。亀きち!太郎ちゃんのごはんテキトーによろしく。』
乙姫『あら太郎ちゃん、よく働いてくれているようねえ。何かご褒美あげなくちゃいけないかしら。そうね…食べたいものがあったらなんでも言っていいわよ。鯛でも鮃でも、なんなら亀でもいいのよ。ふぉほほほほ。』
太郎&亀きち『…』
乙姫『そうだ、こんど私の部屋に遊びにこない? … 太郎ちゃん。ふふふ。』
太郎『なあ亀きち…もう僕を陸に戻してくれないか。この通りだ。』
亀きち『おまえの気持ちもわかるよ浦島。実はな、あの乙姫はずっとむかしは陸に住んでたんだよ。でもやたら悪さばかりするから神仏の怒りを買って海の底へ追いやられた…そういう古い妖怪なんだ。』
太郎『えっ、妖怪だって?そうだったのか!』
亀きち『俺だって好きでここにいるわけじゃないんだよ浦島。あいつに逆らうとひどい目にあうから… 俺の友達なんかあいつに逆らって甲羅をはがされて、代わりに大きなタコをくっつけられたんだ。その辺にいる人魚たちだって、もとは陸にいた村の人たちなんだけど乙姫が面白がってあんな風にしてしまったんだよ。』
太郎『なんてひどいことを!』
亀きち『わかったよ浦島、今夜こっそり陸に帰してやるよ。乙姫にはあとでテキトーに話しておくから。(浦島もそろそろ限界か… 城内の修理もほとんど終わったし帰してやるか)』
太郎『本当か亀きち!ありがとう!』
亀きち『こら静かに…乙姫に悟られたら終わりだぞ。』
太郎『やっぱり陸はいいなあ…ありがとう亀きち、お土産までもらって。』
亀きち『浦島、大きい声じゃ言えないけどよく聞けよ … それ、開けない方がいいぞ』
太郎『え?』
亀きち『つまり、俺なら絶対開けないっていうことだ。わかるよな浦島』
太郎『あ?ああ…じゃあ、ありがとう亀きち。(なんだか気味が悪いな、これあとで捨てようかな…亀きちが見えなくなったら…)』
『ああっ!』
乙姫『ああやっぱり陸はいいねえ!また昔みたいにひと暴れしたくなってくるよ。ふふふ… 確かに亀きちの言うとおり、 太郎ちゃんと一緒なら陸でまたうまくやっていけそうな気がするよ。』
乙姫『よろしくね太郎ち…あら、あたしのおしろいかぶって髪がまっ白じゃないの。太郎ちゃんまだ若いのにおじいさんみたいよ。ほっほほほほ…ふぁっはははは!』
太郎『亀きち… 』
亀きち『( もう箱を開けたのか…もう少し賢いと思ってたけど、だめだな浦島。少しかわいそうなことをしたか…でも海の中はこれでしばらく平和になる。…がんばれよ浦島)』
《終わり》
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