『きゅうり取られた!』
悲しみのあまり巨大化してしまった河童…
深い悲しみがやがて怒りへと変わりさまよい歩く河童であった。
『きゅうりをかえせ~』
したっぱ『あにき、このきゅうりをあの河童から盗ったばっかりに、街じゃ大変なことになっちまってるでげす。』
あにき『そんなこと言ってもよお、おめえが美味そうなきゅうりだなって言ったんじゃねえか。』
したっぱ『おいらのせいでげすか?』
あにき『んーしょうがねえなあ、二本喰っちまったけど、残り… 返しにいくか?』
したっぱ『そうでげすよ、さすがあにき!』
あにき『おーい河童!俺たちが悪かった。きゅうり返すから、おとなしくなってくれ!』
『見て、川きちくん! あたしよ、幼馴染のお絹よ!このきゅうり、あたしが川きちくんにあげたきゅうり、わかる? このきゅうりが盗まれてそんなに悲しい思いをしてたなんて、あたし嬉しいわ。でも!お願いだから、気をしっかり持って、はやくもとの川きちくんの姿に戻って!』
お絹『大きさも元に戻ってる… 川きちくん大丈夫? 怪我はないの?』
したっぱ『河童の川きち、あのあと元気になったみたいで良かったでげすねぇあにき。お絹ちゃんとも仲よさそうだったし。』
あにき『んーまぁ、そうだなぁ。嫌いなきゅうりでもお絹ちゃんにもらったやつだからあんなに落ち込んだんだなあ。俺はもう きゅうりはこりごりだがよお。そういやそろそろ なすが美味い季節だ、なす盗って喰うか。』
したっぱ『え、また盗むんでげすか?』
あにき『ああ?ばかやろう!おめえなに寝ごと言ってんだ、俺たち泥棒だろ、忘れたのか。』
したっぱ『あ、そうでげした、へへ。 そう、おいらは江戸でいま一番の泥棒、ねずみ小僧みたいになるんでげ… 』
あにき『こらっ!猫が、それだけは言うな!』
したっぱ『兄貴、街にこんなもんが貼ってあったでげすよ。』
兄貴『んーこりゃほとぼりが冷めるまでしばらく仕事はできねえなあ。』
したっぱ『兄貴、おいらってこんな恐い顔でげすか?』
兄貴『人相(猫相)書きなんて、いつの時代もこんなもんよ。…ところでおめえさっきから何ニヤニヤしてんだ?』
したっぱ『フフッ、なんだか少し大物になった気分でげす。』
《終わり》
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