おばばの過去 YUREI

おばばの過去 YUREI1

おばばの過去 YUREI2
おしづ『どうしたの?お富さん。』

お富(若き日のおばば)『ああ、あんたはたしかおしづさん…だったね。さっきから死ぬつもりでここに立ってるんだけど、足がすくんでどうにもだめなんだよ。』

おしづ『あらそんな… 』

お富『あたしは子供時分からあんたらが見えるせいで周りから気味悪がられてねぇ、そのせいもあるのかずっと独り身で、もうずいぶん歳もとってしまったよ。最近じゃ見えすぎるせいで仕事もうまくいかずお金にも困るしまつさ… あんたら幽霊はいつまでも若くていいよねぇ。』

おしづ『そんな、お富さんだってまだじゅうぶん若いわ。』

お富『ふふふ、ところで一度あんたに聞きたかったんだけど、おしづさんは何に未練があるんだい?どうもそこいらの幽霊とは違う気がするんだけど、でもやっぱり好いた男の未練かい?それとも、何かの恨みかい?』

おしづ『いいえお富さん、あたしは若い時に坂でころんで頭を打って死んじゃったの。それでここにいるのはね、この世のいろんなことをもう少しだけ知りたいからなの。気が済んだら閻魔さまのところへ行くつもりでいるのよ。』

お富『そうかい。幽霊もいろいろなんだねえ。』

おしづ『そうだお富さん、お金に困ってるなら、あたしらを使ってみない? このお江戸は不思議な町よ。怖い怖いって言いながらもあたしら幽霊を見たがる人がたくさんいるの。だから幽霊を見せるって言えばお金を出す人は必ずいるはずだわ。そうね一人じゃ飽きるだろうから、本所や深川あたりの幽霊をみんな紹介するからそれをお客さんにも紹介して好きな幽霊を選んでもらえばいいのよ。幽霊だって何もしないでふわふわ浮かんでるより働いている方がいいし、それでそのうち未練や恨みを忘れて成仏すればみんなの助けにもなるわ。』

お富『 面白いこと言うわねえおしづさん。あたしたったいま 死ぬつもりで … じゃあそれ、やってみるかい?』

おしづ『うん。… 泣かないで、お富さん。』

※以上、随分昔の話ですが、まあそんなわけで江戸幽霊業組合が出来たわけであります。